月の鉄路

アクセスカウンタ

zoom RSS 空転!後退! 雪と闘った芸備線キハ120型物語

<<   作成日時 : 2008/01/01 11:30   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 12 / トラックバック 1 / コメント 2

画像

〜今までの人生の中で,いちばん思い出に残る列車旅になろうとは,始発駅では思いも寄らなかった〜

大晦日,筆者は新見から芸備線備後落合行き445Dに乗った.列車はキハ120型の単行.

伯備線下り列車の遅れのため,始発駅である新見発車が,4分ほど遅れた.

備後落合で乗り継ぎ予定の芸備線三次行き367Dとの乗り換え間合が2分しかなく,不安になりウテシさんに聞いてみたら,接続を要請するとのこと.

この年末年始は,日本海側に強い寒波が押し寄せて,山陰・中国地方は大荒れの天気となり,芸備線の列車しか停車しない布原駅は,ホームが雪に埋まっている.

列車には15人程度の乗客がいたが,ほとんどが小奴可で下車し,乗客は筆者と女性の2人だけとなった.

山間部を走る芸備線は,自然と隣合わせ.新見発車以降,雪はどんどん酷くなり,レール面を雪が覆っている.

画像実は,内名―小奴可でも空転が発生し,列車が止まってしまった.そのため小奴可到着が遅れ,ウテシさんは遅延発生と,以後の増延の可能性を列車司令に連絡するが,司令員から返ってくる言葉は,「頑張って下さい」と,何となくつれない.

(もちろん,司令員もどうしてやれることも出来ないのは承知だが…/赤文字部分は筆者のその時の心境を示す/以下同じ).

そして,445Dはいよいよ,道後山へと向けて発車した.この区間は,25パーミル勾配が連続する難所で,しかも,道後山はスキー場で有名なくらいだから,雪の降り方も半端ではない.

雪の重みで傾いた木々が,車体限界を侵し,車体に当たる.

ワンマン運転士は,一人でさぞかし心細いだろう.列車無線も,不感地帯のようで,雑音でよく聞き取れない.

画像とうとう,列車は空転して止まってしまった.それどころか,じわりじわり,列車はゆっくりと後退を始めてしまった.ウテシさんは,もちろん制動手配を採る.

(ATS−P区間だったら,後退検知に引っ掛かるだろう.首都圏の路線だったら,絶対に運休になる).

筆者は,いたたまれなくなって,思わず席を立って,ウテシさんの横で様子を見守った.

(ウテシさんからすれば,筆者のような傍観者がいちばん頭に来るんだろうけれど…/だから,知識の開け出しのような,余計な口を挟むのは止めました/それに,なんてったって,筆者は素人だもん).

しかし,筆者の心配とは裏腹に,ベテラン運転士さんは,とても冷静であり,頼もしい.

(自分が彼の立場だったら,テンパって,絶対に仕事を投げ出します).

「(キハ120型は)ステンレスで車体が軽いし,空転検知が付いていて,これが力行を勝手に止めちゃうんですよ」.

なるほど,空転検知装置も,こういうときは余計な機能だ.国鉄型気動車に比べ,高性能に見えるキハ120型も,冬季は短所が見え隠れする.

列車は,何度も空転と後退を繰り返す.

(もしかすると,この列車はヘタリ(=運転不能)になり,救援を待つ間,山間部で孤立するかもしれない/イヤだ).

画像「スノープロウが雪を掻くようじゃ」…列車本数が少ないため,軌道に新雪が積もる.ライトに,スノープロウに跳ね上げられた雪が,照らし出される.

筆者も,前方を助士席窓から見守る.ライトが照らす前方の軌道は,25パーミルの上り勾配だけでなく,曲線状をしている.排雪抵抗に曲線抵抗…これはつまり,上り勾配で空転中の軽快気動車に,25/1000以上の抵抗が掛かっていることを意味する.

後に,列車代行のタクシーの運転士さんから聞いた話しだと,数年前,芸備線が雪崩に突っ込んで,数週間もウヤになったそうで,雪崩の原因の一つに,列車走行時の振動が挙げられると聞いた.

同じ個所で,何度も空転・後退を繰り返していると,雪崩発生の危険もあるわけで,気動車のウテシさんは,雪崩のことも気にしながら,列車を操っていたのかもしれない.そう思うと,頭が下がる.

画像ウテシさんは寒さをものともせず,窓を開け,丹念にノッチを刻みながらエンジンの音に耳を澄ませる.動軸は後部台車だが,この動作によって,エンジンの音がわずかに変わるのをキャッチ出来る.以前,鉄道ジャーナル誌上において,金沢工業大学の永瀬和彦先生(鉄道工学)の記事で読んだ,空転に見舞われた際の基本動作だ.

(今にして思えば,筆者は,ウテシさんの横に立つよりも,後部動軸台車上に立っていた方が,少しでも粘着が増したかもしれない/キハ120型は応荷重装置が付いていないみたいだし…).

なるほど,エンジンの唸りが変わるのが分かる.そして,わずかに力行が続く.しかし,メータに目をやると均衡速度は10km/hにも満たない.徒歩とそれほど変わらない速度を保つのがやっと.

じれったい.気の短い筆者だったら,絶対に2ノッチを投入してしまう.でも,ウテシさんはあくまでも1ノッチを維持している.

忍耐力の甲斐あって,やっと分子(分数の)が左下に傾いた勾配標が見えて来た.

「ここまで来れば終わりです.後は下り勾配ですから」.列車は,やっと道後山に到着した.

画像空転・後退を何度繰り返したことだろう.ウテシさんは,決して今来た駅に戻ろうとせず,力行だけを試みていた.

道後山を出て,列車は,芸備線三次行き367Dが待つはずの備後落合に差しかかった.

しかし,構内に三次行きの姿はなかった.周辺に何もない備後落合駅で,筆者は,これから先,進む術をなくし,落胆した.

そんな筆者の気持ちを察してか,ウテシさんが,「とんだ大晦日になっちゃいましたね」と,慰めてくれる.

その言葉に,ハッとさせられた.だって,大変な思いをされたのは,ウテシさんの方なのに,最後まで乗客を気遣ってくれた.そんな心意気の良さに,決して大袈裟ではなく,素直にジーンときた.

(東京に住んでいると,なかなかこういうヒューマンなシーンに巡り合うことがない.例えあったとしても,クレーム回避のために,己の保身のためにやっているのが見え見え./だから,この芸備線のウテシさんの発言には,本当にジーンとさせられちゃったんだよねぇ).

筆者は,「いえいえ,運転士さんの所為じゃないですから」と返すのが精一杯だった.

「いま,すぐ代行タクシーを手配してきますから」.ウテシさんは備後落合駅の改札口に走った.

画像ところが,ホームには既に列車代行タクシーの運転士さんが,我々を迎えに来てくれていた.列車無線の不感地帯を走行中,列車司令は,代行タクシーをきちんと手配してくれていたのだ.

(この記事中前段において,芸備線CTCのことを悪く書いてしまいました.ごめんなさい.おかげで,山中の周囲に何もない備後落合駅で,寒い思いをせずに済みました).

列車の遅延や運休に対し,JRは責を負わないとされている18きっぷ使用者を見放さず,JR西日本は,最後まで立派に対応して下さいました.

考えたら,30分以上増延した列車と接続していたら,先方列車の乗客にも迷惑が掛かるし,その先方列車だって,三次で更に接続手配を採らねばならない列車がある.

すなわち,比較衡量の面から,JR西日本は,最大限,適切に対応してくれたのだ.筆者は,そのことに気付くまでに時間を要した.己のことばかり考えていた自分が,情けない.

今回の芸備線での出来事から,筆者は同じ社会人として,いろいろなことを学んだ.

「お気を付けて」.タクシー乗り場に向かう筆者らを,気動車のウテシさんは,ホームから見送ってくれた.

今までの人生の中で,いちばん思い出に残る列車旅になった.

筆者は,この芸備線での体験を一生忘れない.

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 12
なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)
ナイス ナイス ナイス ナイス
驚いた 驚いた
面白い

トラックバック(1件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
青春18きっぷで姫新線〜芸備線
年末年始,青春18きっぷで旅をして来た.今回は,姫新線,芸備線(未乗区間),三江線,一畑電鉄(未乗区間)を踏破する行程. ...続きを見る
鉄道基準
2008/01/03 22:16

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
あけましておめでとうございます。
ローカル線で接続とってもらわないと客に逃げられますから、ちゃんと接続とってくれたyぴですね。レール上のキハ120の空転はまだ、ましだと思います。10tトラック空転させて車体を斜めに向かしたことがあります。それでもチェーン巻きませんでした。ただの馬鹿です…。
としおちゃん
2008/01/02 22:30
としおさん,いつもコメントをお寄せ下さり,ありがとうございます.
どうぞ安全運転で….
ツキだっ!
2008/01/03 18:45

コメントする help

ニックネーム
本 文
空転!後退! 雪と闘った芸備線キハ120型物語 月の鉄路/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる